ABC post production

山村哲士氏と濱名紘輔氏

SAN / NAS 統合で素材共有

朝日放送 (ABC) は、ポストプロダクションおよび制作部門の編集設備を今春全面的に更新し、即運用を開始した。ABC では 2008 年の新社屋移設当初から、セントラルストレージに Apple Xsan を配備し、Apple Final Cut Pro ベースのワークグループ、ノンリニア編集環境で運用していた。

今回の更新は旧来のワークフローを維持しつつ完全なファイルベース化への移行をにらんで、セントラルストレージを SAN / NAS ハイブリッド型の Scale Logic 社製「HyperFS」に変えた。局内ポストプロ設備更新の方針について、技術局制作技術センターポスプロ担当の山村哲士氏と濱名紘輔氏、およびシステム設計を担当した阿吽 (あうん) 技研に取材した。

「配置バランスがとにかく重要」

ABC の VTR 室には、依然として多数の収録・再生 VTR が存続している。自社内での素材のやり取りは相当なレベルでファイルベース化しているが、系列他局との素材交換を鑑みた場合に旧来の VTR はまだ当面は必要であるという考えに基づく。山村氏によれば、どうしても捨てられるものと捨てられないものがあり、その配置バランスがとにかく重要であるという。

将来の NLE アプリケーションの選定に悩みつつ、使い勝手やディレクター陣が蓄積してきた編集スキルの維持を考慮して FCP7 を継続利用する基本方針のもと、画質向上を目して局内デフォルト中間コーデックの DVCPRO HD をやめて ProRes を採用、ストレージ使用容量の増加を見越して倍増し、現在は 512TB のセントラルストレージを有する。

インジェストシステムを適材適所に配置

旧システムでも Mac によるスタジオ回線収録機器が存在したが、チャンネル数の増加要請に応じて 1 台の Mac で複数チャンネル / コーデックの同時平行収録が可能な Softron 社のインジェストソフトウェア「MovieRecoder 3 (MR3)」とビデオ I/O「M|44」ハードウェアを 3 式採用し、 MR3 の API を利用して VTR 機器との連動収録が実現されている。同システムはテレビ朝日系列局で放送される全国高校野球選手権大会のダイジェスト・ドキュメンタリー番組『熱闘甲子園』でも採用されており、経験値と安定性に信頼がある。Edit While Ingest、いわゆる「追いかけ編集」にも対応している。

MR3 8Sources New retina McCartney

MR3 のユーザーインターフェイス

スタジオインジェスト用の MR3 とは別に、VTR からのキャプチャーに特化した阿吽技研製の「MAI (マルチチャンネルインジェスター)」 も採用された。

こちらも PC 1 台で複数のチャンネルを同時並行に処理でき、加えて RS-422 デッキコントロール機能の工夫により、Servo Lock 検出、タイムコードブレーク検出等により、素材の必要な部分だけを抽出して別々のクリップに分けられる。このような人手に頼らないオートメーション機能により、FCP7 と VTR の 1 対 1 のキャプチャー作業に比べて大幅な効率化が実現、スタッフからも好評で実際の稼働率も非常に高いそうだ。

MR3 と MAI は、プラットフォーム (Mac と Windows) と、備える機能の特性に違いはあれど、ともに ProRes や DNxHD、XDCAM、AVC-Intra といった業務用コーデックに対応しており、1 チャンネルソースから複数のファイルを生成できる。

MAI はさらに HD 解像度から SD へのダウンコンバート機能も有しており、 オンライン用の ProRes ファイルとオフライン用のタイムコードスーパーインポーズ付き DV25 ファイルの同時生成が可能だ。日本の映像制作環境には DV25 によるオフライン編集の文化がまだ残っており、そうしたワークフローにも即応用できる MAI は稀有な存在だと言えそうだ。

これら最新のマルチインジェスト機器は SAN センターストレージに直結しており、収録作業の進行と同時に編集作業に取りかかれる。回線収録と VTR 収録の拡充により、十数ある編集ブースは編集作業だけに集中でき、システム全体の稼働性も大幅に改善した。

MAI

MAI ハードウェアユニット

MAI UI

MAI のユーザーインターフェイス

スタジオ回線収録の MR3、VTR 収録の MAI、オンライン編集の FCP7 による ProRes を本線とする環境にマッチさせるため、非 ProRes ファイルフォーマットの変換も可能なファイルインジェストシステムも今回新設された。フロントエンドには Square Box 製メディアアセット管理ソフトウェア「CatDV」、バックグラウンドには Telestream 製トランスコーダー「Vantage Lightspeed Server」が採用されている。

CatDV は SD カードなどのカメラメディアのプレビュー、および選別に利用される。ABC 内部の制作環境向けに高度にカスタマイズされており、番組名や担当者情報が予め登録、できるだけ文字入力をせずに素材管理ができるようになっている。Vantage は CatDV 上で指定した情報に従い、AVCHD などから ProRes にトランスコードしたファイルを各担当者ごとの作業フォルダに自動的に振り分ける。作業担当者がファイル保存先を毎度指定するような煩雑さはない。

CatDV

CatDV のユーザーインターフェイス

lightspeed server

Lightspeed Server

HyperFS で構築

施設更新の核となるセントラルストレージとして選ばれたのは、日立製作所製ミッドレンジストレージ Hitachi Virtual Storage Platform (VSP G100 / G200) およびアドバンストサーバー HA8000 と、Scale Logic 製コンポーネント「HyperFS」および「スケールアウト NAS ゲートウェイ (SONG)」による SAN / NAS ハイブリッドファイル共有システムだ。

ABC には十数の完全に個々に仕切られた編集ブースをはじめ、 複数のポストプロ編集室があり、 そこでは日々独立した編集作業が行われている。デイリーのファイル容量は計算できず、作業量も大きく変動する。このような各編集ブース / 編集室からのランダムアクセス性や作業量を考えるとやはり SAN の方が有利である。一方で素材プレビューなどカジュアルな作業は専用のドライバを必要としない NAS の方が汎用性 / 柔軟性に富む。ABC では今回、 ポスプロ制作向けのストレージシステムとして SAN か NAS かを選択するのでなく、 その両方の特性を併せ持つものが理想であるという結論に達し、HyperFS と SONG を採用するに至ったという。

ha8000 vantage

セントラルストレージ

ABC のシステムには SAN メタデータコントローラが正副構成で2台、SONG サーバーがクラスタ構成で 2 台存在する。各種クライアントから HyperFS + SONG ファイルシステムに SAN 接続した場合も NAS 接続した場合もファイルパスは共通となっており、相互運用性が高い。

アクティブ-アクティブ型の SONG サーバーは冗長性が確保されるとともに、NAS クライアントからの接続要求に対してセッション数やサーバー負荷を考慮した自動振り分け応答が可能となっている。必要帯域を得るために 10Gbit で NAS 接続できる端末も用意されており、 他部署の端末からの接続も考慮されている。ユーザー認証にはポスプロ制作部門専用の Active Directory (AD) サーバーを新規導入、別部門で使われている既存の AD ドメインと信頼関係を確立して統合している。

ストレージ本体はメタデータ記録専用領域として VSP G100 が 1 台、ユーザーデータ領域として拡張ユニットが追加搭載された VSP G200 が 2 台あり、現在の総容量は 512TB。将来の容量 / 性能拡張にも対応している。VSP G100 / 200 は日立の独自技術である HDP (Hitachi Dynamic Provisioning) テクノロジーが盛り込まれており、スピニングディスク内外周の性能差の解消、ディスク内部のヘッド挙動の最適化が計られている。日立製作所から提供される長期保守サービスと相まって、国産の放送用業務機器として圧倒的な信頼性を誇る。

ABC では白完も完パケもテープで残す習慣がまだ残っているため、ノンリニア編集設備更新に伴いリニア編集室も更新している。同局は今後、次世代の放送番組制作ワークフローを視野に入れ、さらなる利便性と安定性を追求したシステム構築を展開していく。

本事例は映像新聞 (平成 28 年 10 月 17 日号) に掲載された記事を元に作成しました。

映像新聞社ホームページ : http://eizoshimbun.com

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