テレビ西日本 映像素材の効率的活用を実現
「Space」を中核サーバーに統合 MAM システムが稼働
テレビ西日本 (TNC) が 2015 年 1 月から本格稼働させた、全社で共有する「メディア アセット マネージメント システム (MAM システム)」は、信頼性の高い安定した基盤システムとして、同局の運用を担っている。
「収録から編集・送出まで」の TNC 全域に渡る運用をファイルベース化するというプロジェクトのもと、その運用フロー内を行き来するメディアを中核サーバーで一括管理するという構想で組み立てられた、TNC 独自のシステムである。
報道、制作、スポーツと、通常ならば別々の編集および制作環境を持つ分野を、1つの管理サーバーシステムで運用するという前例はなく、系列局や他局からのシステム見学の依頼は絶えない。
MAM システムの開発に携わった、TNC 技術局映像センター映像部主査の吉村圭介氏と徳重智寛氏に、素材サーバーを中心としたシステム構築の経緯について聞いた。
吉村圭介氏
徳重智寛氏
現場が要求する仕様を柔軟に取り込み
TNC は、プライマリーのシステムインテグレーターとして、パナソニック システムネットワークスを選任し、共同で同システムを開発した。ゼロから始めたこともあり、継続していくべき作業手順および従来のフローを見直しながら、現場が要求する仕様を柔軟に取り入れることができたという。
MAM システムには、主幹となる素材サーバーとプロキシサーバーが二重化冗長で稼働し、信頼性を高めている。両サーバーには、GB Labs 社製「Space」を採用。このサーバーへの素材取り込み (インジェスト) から独自の工夫がなされている。
TNC では、ファイル化するにあたり、XDCAM 50Mbps を標準カメラフォーマットと定め、2013 年から段階的に切り替えていった。
インジェストには、XDCAM ディスクから取り込む 6 台の XDCAM ドライブと、PC ワークステーションで構築したインジェストステーション「U2 インジェスト」および、回線センターからのベースバンドで取り込む 6 台のパナソニック製インジェスター「AJ-ZS2001」(合計 8ch 同時収録可能)、そして外部機器からのネットワーク転送で実行する。
U2インジェストの GUI は特製で、タッチパネル式のディスプレイには、各 6 台からディスクの取り込みの様子が視認できるようになっている。
(左から) U2 インジェストと、インジェスターのハードウェアスイッチ (コントロールパネル)
報道の場合、TNC では取材カメラマンが編集まで作業をする。インジェストにかかる時間は、実時間の 1/3 ほどで、終了後はすぐに編集に取り掛かることができる。この U2 インジェストでは、ディスクの中に XML で埋め込まれているユーザーディスク ID と、ディスクケースのバーコードを一致させることで、MAM 側で認識し、追ってひも付きできるようになっている。
素材のメタデータは、人の名前や事件名など必要な情報は個別にテキスト化し、プロキシプレビューの際に挿入していくことを日常化している。
MAM システムでは、ディスク内の各クリップを 1 つの素材として認識するが、素材のサムネイルにはカラーバーではない 2 クリップ目が登録されるようになっており、細やかな配慮がなされている。
TNC では、ノンリニア編集システムをすべて Grass Valley 社製「EDIUS」で統一し、全フロアで 30 式が稼働。素材共有の必要性が高い報道やスポーツでは、素材サーバーに直接アクセスして編集する場合が多く、インジェスト中の素材でも編集可能な『追っかけ編集』ができる環境で作業速度を向上させている。
超高速 NAS(ネットワークストレージ)Space に約 3000 時間の素材データを保存
この大量の同時編集アクセスを受け入れられる帯域幅と転送速度 60Gbps を持つ素材サーバーは、メイン (SSD 仕様) と 1 日差分を置くバックアップ (HDD 仕様) 共 100 テラバイト分のストレージ容量を持ち、約 3000 時間 (XDCAM 50Mbps 換算) の素材データを保存できる。
アーカイブについて、徳重氏は「他局だと素材サーバーの容量がネックになっているという話も耳にするが、TNC では、一定の期限で素材サーバーから自動的にデータを消すことで、サーバーの使用容量が常に 50% を超えないようにしている。報道側は、データが 1 つしかない状態から削除するのは非常に不安だ。削除されて困った状況となっても、アーカイブから戻せる環境にしたことで、不安要素を取り除いた」と説明する。
TNC のサーバー (Space) システム
数十台の端末から同時接続
全社の各セクションが常にアクセスし、大量のメディアファイルのやりとり、そして送出サーバーへの転送。そのような環境で導入された事例が国内になかった「Space」を採用する過程で、安定性を確認するために、GB Labs 社 および国内代理店の協力で多様な検証をしたという。
吉村氏は「特にベンチマークについては、TNC の環境で実施した。以前の編集システムは、ネットワーク下でニアラインとつながっていても、簡単なデータの共有程度でしか使っていなかった。今回、素材サーバーにある実データを同時に数十台の端末からアクセスできる環境を構築するため、対象サーバーの安定性を求めた。実際に 20 台以上の編集システムを用意し、同時にサーバーにアクセスしてスクラブ編集をかけるという実験を試みた」と説明する。
その結果、数十 % 以下の負荷しか掛からないことが実証できた。このシステムで大丈夫という確証判断のもと、現予備、プロキシサーバーを同じメーカーに統一した。
統合 MAM システムについて、両氏は「TNC より大きい規模であれば、スポーツサーバーといった専用サーバーを入れざるを得ないし、報道とは別に切り分けなければならなくなる。逆に当社よりも小さい規模になると手に余るだろう。おそらく、当社の規模が今回の統合システム構築に適応するジャストサイズだったと思う」と話す。
本事例は映像新聞 (平成 28 年 7 月 18 日号) に掲載された記事を元に作成しました。
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